日本人男性医師がインドで女性に「代理出産」してもらった結果生まれた子どもが日本に入国できないということがニュースになりました。
この生まれた子どもについて,依頼者男性が父親としての地位を有することが当然の前提となっているようですが,それは法的に自明のことなんでしょうか?
本件で生まれた子どもは,依頼者の父親と婚姻関係にある者の間で生まれた子どもではありませんから,「嫡出でない子」ということになります。嫡出でない子の父と子の関係については,子の出生当時における父の本国法,つまり父親が国籍を有する国の法律が原則として適用されます(法の適用に関する通則法第29条第1項)。本件では日本法ということになります。
日本法上,子どもが出生時に依頼者男性の子どもであったと言えるためには,子どもを出産した女性と依頼者男性とが出生時に婚姻関係にあったか,又は子どもが胎児の段階で依頼者男性が認知している必要があります。しかしそのような事情はいずれもありません。
出生時になかった父子関係を発生させる手段は生後の認知です。認知による父子関係の成立については,出生時の父親の本国法のほか,認知の時点における父親又は子の本国法によることとされています(同法第29条第2項)。さらに,認知する者の本国法によって決める場合には,子どもの利益の保護のため,認知当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときには,その要件を具備する必要があるとされています。
子どもは未だ国籍を有していないとのことですから,子どもの本国法の代わりに子どもの常居所地法が適用されることになります(同法第38条第2項)。子どもは生まれてから今までずっとインド国内にいるようですから,インドの法律の適用が問題となります。
インド法上(インドが不統一法国であるとすれば,常居所地の地域の法律(宗教によって違うのであればそれも考慮)上),認知に当たって子ども本人や利害関係人の承諾が必要となっているかどうかは分かりません。ただ,報道によれば,インドでは,代理出産により生まれた子は養子縁組により依頼者夫婦の子どもとなるとされているようです。また,その養子縁組に当たっては,養親となる者は独身者ではダメであるとされているようです。
夫婦でないと養親になれないというのは,日本民法にみられる同種の規定(特別養子の養親が配偶者のある者でなければならないとする民法第817条の3)の趣旨から見て,養子となる子どもの保護のための規定と言えるでしょう。
そうすると,インドの養子縁組に関する上記の制限は,子どもや利害関係人の同意を要求するよりも更に強い,子ども保護の規定であり,子どもの保護を趣旨とする法の適用に関する通則法第29条第2項の趣旨からすれば,同条同項所定の要件同様に満たすべきものと考えられるのではないでしょうか。
そうであるならば,法の適用に関する通則法第29条の適用(類推適用か?)により,認知による父子関係発生の効力は生じないので,依頼者男性と子どもの間に父子関係は生じない,という結論もありえるでしょう。依頼者男性が父親であることが当然のように議論することはいかがなものか,と思います。
ただ,このような結論をとることに合理性はあるのか,という問題はあります。
本件は,男性が自分の遺伝子を引き継ぐ子どもを女性に産んでもらおうとして,以前であれば,妾や側室を囲って性交により妊娠,出産させていたのを,生殖補助医療の技術を用いて妊娠出産させた(更に,その準備段階として第三者に排卵させた。),というものです。正に女性を産む機械と排卵する機械として扱おうとするものでしかありません。
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