もう結構前になりますが,東京電力の株主が,原子力損害の賠償責任が東電にないことを理由に,国家賠償請求を求めたというニュースがありました。
国賠ではなくて,経営者に対する株主代表訴訟を提起すべきではないかと思うのですが,その点はおきます。
賠償責任がないことの理由というのが,今回の地震,津波が原子力損害賠償法(原子力損害の賠償に関する法律)3条1項但書にいう「異常に巨大な天災地変」に当たるからだということでした。
原子力損害賠償法はこの免責事由を定める前提として,同法3条1項本文で原子力事業者の無過失責任を定めています。
ところで,この無過失責任を定めた立法としては,最近は製造物責任法の例があります。
製造物責任法では,欠陥ある製造物を製造などした事業者に,製造物の欠陥から生じた損害についての無過失賠償責任を負わせている一方で,開発危険の抗弁と言って,以下の事実が証明された場合に免責されることを認めています。
当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
この開発危険の抗弁については,欠陥の認識可能性を基礎付ける技術水準が最高程度の知識水準であることが分かるように書けと求める消費者側と,なるべく抗弁の認められる範囲を広くしようという産業界が対立していました。結局,少なくともこれまでの判例による救済水準を下回ることはしない,ということで,入手可能な最高の技術水準を示す「価額又は技術に関する知見」という言葉が採用されたのです。
その際参考とされた裁判例が,東京スモン訴訟第一審判決でした。(東京地裁昭和53年8月3日判決,判例時報899号)。
このスモン判決は,キノホルムとスモンとの因果関係を認定した上で,過失を基礎付ける予見義務について
ところで、医薬品を製造・販売するにあたつては、なによりもまず、当該医薬品のヒトの生命・身体に及ばす影響について認識・予見することが必要であるから、製薬会社に要求される予見義務の内容は、(1)当該医薬品が新薬である場合には、発売以前にその時点における最高の技術水準をもつてする試験管内実験、動物実験、臨床試験などを行なうことであり、また、(2)すでに販売が開始され、ヒトや動物での臨床使用に供されている場合には、類縁化合物をも含めて、医学・薬学その他関連諸科学の分野での文献と情報の収集を常時行ない、もしこれにより副作用の存在につき疑惑を生じたときは、さらに、その時点までに蓄積された臨床上の安全性に関する諸報告との比較衡量によつて得られる当該副作用の疑惑の程度に応じて、動物実験あるいは当該医薬品の症歴調査、追跡調査などを行なうことにより、できるだけ早期に当該医薬品の副作用の有無および程度を確認することである。なお、製薬会社は、右予見義務の一環として、副作用に関する一定の疑惑を抱かしめる文献に接したときは、他の(同種の医薬品を製造・販売する)製薬会社にあててこれを指摘したうえ、過去・将来を問わず、当該医薬品の副作用に関する情報を求め、より精度の高い副作用に関する認識・予見の把握に努めることが要請されるのである。
なお、右(1)(2)の場合を通じて、動物実験によつては、必ずしもヒトにおける重篤な副作用の予見が可能であるとは限らず、また可能であるとしても容易であるとは限らないのである(前記第四節参照)から、予見義務の内容として、製薬会社に第一次的に要求されるのは、国の内外を通じて、主としてヒトに関する臨床上の副作用情報の収集に努めることであるといわなければならない。
と述べています。
ここで収集すべきものとされている文献の範囲について上記判決は,かなり広い範囲の文献を求めており,南米の文献まで,取り寄せ可能な文献の範囲に含めています。
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